「ゲノム編集による育種で世界のタンパク質不足を解決する」

  • 本プログラムが開始された2021年度にフェーズ3で採択され、プログラム卒業後の現在も活躍を続けておられるリージョナルフィッシュ株式会社の岸本謙太氏に、事業化に至る背景や今後起業を目指す方へのメッセージ、本プログラムの魅力等について話していただきました。

     リージョナルフィッシュ株式会社 研究開発部長 岸本謙太氏

 

事業化に至る背景について

岸本さんは現在、リージョナルフィッシュ株式会社で研究開発部長を務めておられます。会社設立前から研究に携わってこられたとのことですが、起業に至る経緯や背景を教えてください。

  • 私は大学時代、現在リージョナルフィッシュにも参画している京都大学の木下先生の下で、ゲノム編集マダイやトラフグに関する研究をしており、「これは社会に貢献できる技術だ」という実感を持っていました。ただ同時に、どのように研究成果を世の中に還元していけばよいのかという課題も感じていました。ゲノム編集技術は消費者受容や法規制などの問題もあり、大手企業も積極的に参入できず様子見状態が続いていたからです。そこで、いっその事自分たちで会社を興して取り組んでみようと木下先生と話していたところ、ビジネス経験が豊富な現リージョナルフィッシュ代表の梅川氏と出会い、起業に踏み切ることとなりました。
岸本さんが大学で研究していたゲノム編集マダイとトラフグは21年に上市に成功しており、ECサイト等で購入できる

 

木下先生、岸本さん共にアカデミアのご出身ということで、ビジネスの世界に飛び込むには不安もあったのではないでしょうか。

  • ビジネスの経験はなく自信はありませんでしたが、ビジネスやベンチャー企業の立ち上げにおいては梅川氏が豊富な経験を持っていたので、大きな不安はありませんでした。実際事業面でもこれまで困難な課題に直面することなく、成長できたと思います。
    ただ、創業当初のメンバー集めには苦労しました。創業メンバーに加えて研究開発を担うメンバーが必要でしたが、会社の立ち上げ直後は知名度もなく、広く募集をかけても求める人材が獲得できなかったため、知り合いの伝手などをたどり地道に働きかけました。

 

ビジョンの中核を担う研究開発人材の獲得には苦労されたものの、順調に事業を進めてこられたのですね。今後本プログラムへの応募を検討している方や、アカデミアから起業を目指している方へ、ご経験を踏まえたアドバイスがあればお願いいたします。

  • 一貫して成長を続けるためには、どのような課題を解決するためにそのシーズを研究するのか、というコンセプトが重要と感じます。シーズありきで産業化を目指すのではなく、現場の課題やニーズを的確に捉え、それを解決するための技術開発に取り組む、という流れが重要と思います。それができていないと、研究開発を進めるうちにコンセプトがずれてしまうというのはよくあることだと思います。弊社の場合は、日本の水産業が衰退していることへの問題意識があり、養殖産業の成長がその解決策になり、さらにそれを実現するための手段としてゲノム編集などの技術を活用するという一貫したコンセプトがあったので、シーズをうまく事業に繋げられたのだと思います。
『水産業と地域を盛り上げる』というゴールを見据えて研究シーズを応用・発展させるのがリージョナルフィッシュ社のコンセプト

 

AgriFoodSBIRについて

リージョナルフィッシュ様がスタートアップ総合支援プログラム(以降、本プログラム)へ応募されたのは事業開始の2019年から2年後、2021年のことでしたが、応募のきっかけのようなものがあれば、教えてください。

  • SBIR制度自体は元々知っていたのですが、他省の制度は、弊社の取り扱うテーマと合致せず、応募に至っていませんでした。この度、農林水産分野でも支援制度が開始されることを知り、ゲノム編集や陸上養殖などの開発項目と親和性が高かったため、応募しました。

 

本プログラムでは、どのような研究開発に取り組まれたのですか。

  • 本プログラムが始まる2年ほど前、当時は未だゲノム編集魚の品種を開発できたばかりの頃で、まずは実用規模で養殖生産の実証を行い、この規模では高い生産性を保ったまま養殖できることがわかりました。次に生産規模をより大きくするため、種苗の安定生産技術に着目しました。種苗生産は、養殖において必要不可欠なのですが、良質な卵の安定採取は高い技術が求められます。
    そこで、本プログラムでは、安定した養殖魚の種苗生産システム開発の一環として、繁殖期が限られている養殖魚でも種苗を通年供給する体制を整えることを目標に、通常の産卵期よりも前、あるいは後に生産するという技術開発を行いました。また、この技術の発展として、通常飼育では2年必要とする性成熟の期間を、環境制御によって短縮する技術の開発も行いました。さらに、マダイやトラフグでの経験を元に、新規ゲノム編集品種の開発にも取り組み、国内外に展開できる新品種の開発も実施しました。

本プログラムについて、特に魅力と感じた部分があれば教えてください。

  • まず、資金面は非常に魅力的でした。弊社の場合、品種開発に係る遺伝子解析費用もそうなのですが、環境制御が可能な水槽などをセットアップするためには非常にコストがかかります。あとは優秀な研究員の人件費の支援も重要でした。期間が短かったので、検証できる部分も限られてはいましたが、現在でも発展系の開発を進めています。伴走支援では、海外の情勢などを整理するという点で協力をいただきました。また、ゲノム編集技術や水産養殖技術の開発に取り組む他のアグリベンチャーとの繋がりができたのも、参加してよかったと感じた点です。今後、ベンチャー同士のオープンイノベーションによってアグリ業界を盛り上げることもあると思います。また、ゲノム編集というと規制面でのハードルもあるのですが、それについて事務局や他のグループと議論もできました。本プロジェクトに採択され、開発目標も達成できたことは投資家にもアピールでき、シリーズBの資金調達にもつながったと思います。

 

最後に、リージョナルフィッシュ様の今後の展望についてなど、メッセージがあればお願いします

  • 弊社では、これまでと変わらず、日本の水産業の発展に貢献できるようゲノム編集技術による品種開発をベースとし、水産業にイノベーションを起こしたいと思います。そのためには、優秀なマネジメント人材や研究人材、養殖員人材が必要ですので、我こそはという方は、ぜひご応募いただきたいです。また、技術シーズをお持ちの研究者やこれから開発したいという構想をお持ちの方がいればぜひお声がけください。
水産業にイノベーションを起こすためには、シーズをより大きく・広く展開するためのオープンイノベーションが必要。リージョナルフィッシュ社ではビジョンをともにする現在70団体超の機関と協業を進める

 

(参考)大企業との連携に関する記事について

NTTとリージョナルフィッシュによる合弁会社「NTTグリーン&フード株式会社」設立について~地域と新たな産業創出をめざす~

https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/06/27/230627a.html

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